考え方 9

・同乗者について 2

後部座席
 高級車は別として、大抵のクルマの後席は居住性が前席より劣っています。例えば座席の真ん中にアームレストが装備されていないと体の抑えがきかず、カーブの度にいくらか足を踏ん張ることになり、疲労します。ドア内張と距離があれば同様です。そもそも前席ほどには足元が広くありませんので膝の角度が強めに曲げられたまま動かせず、膝の痛みを誘発する場合もあります。この他排気音がうるさかったり、視界が悪いとストレスにつながることもあるでしょう。いつも運転席にばかり座っているとこういうことを忘れがちなんですね。少なくとも私はそれで失敗しています。
 私はここ数年、年老いた叔父と母親を乗せて、いろんな場所に移動する機会がありました。そういう時、必ずといっていいほど叔父は助手席、母親は後席に座るのですが、ある時から母親がクルマで出かけるのを嫌がるようになりました。はっきりとは言いませんが、後席に座り続けるのが辛いようなのです。私はハタと気付きました。もしかしたら自分の運転が悪いのではないかと。
 確かに室内の狭い軽自動車に乗っていたころもありましたし、田舎ということもあって、山間部の曲がりくねった道を走る機会が多かったせいもあるでしょう。しかし何より、そういう状況下で後席に押し込められている高齢者のことを気遣った運転ができていなかったことが最大の原因ではないか、と思ったのです。考えてみればクルマの前と後ろでは、サスペンションの設定に起因する乗り心地の違いだけではなく、コーナリング中に現れる挙動にも違いはあるはずで、前席の基準だけで加減速やステアリングワークを行ってよいはずがありません。
 評論家の福野礼一郎さんは、ずっと以前から「クルマはリヤ(後席)に乗らないとわからない」とおっしゃっていました。もちろん停車中、走行中問わずです。運転席にだけ座っていても見えないことがあるということなのですが、こんな当たり前のことに最近まで気が付かなかったというのも情けない話です。以後私は、まず後ろに座る人のことを考えて運転するよう努力しています。具体的に言うと、カーブを曲がるときになるべくリヤを振り出すような横Gを発生させないように、必要なのはクルマが地球の公転のように曲がっていくかのような感覚ですね。私は未舗装の道を走り回っていた経験があるため、どんなに慎重に走っているつもりでもこれと真逆の運転をする癖がついていたらしく、その自覚が無かったことにもひどく後悔しています。自分の運転はその程度だったということです。
 今後、家族や友人を後ろに乗せて走る機会もあるでしょう。初心者のうちにぜひ後席も気にする運転を心がけるようになっていただけたら、と思います。