クルマの話なのかバイクの話なのか

ロードスターにKPCという機能が追加されましたが、その動作を知ったとき私はなぜか、ずいぶん昔にバイク雑誌で読んだ宮崎敬一郎さんの言葉を思い出しました。

「よくものの本にリヤブレーキを使う必要なんかない、なんて書いてあるが信じるな。死ぬぞ」

かつてマイケル・ドゥーハン選手がNSRのハンドルにリヤブレーキレバーを取り付けたのは有名な話ですが、現代のモトGPでも同様の機構が使われていることを考えれば、実に奥深い言葉です。もちろん一般道においてもバイクのリヤブレーキはあらゆる場面で役立ちます。例えば低速で小回りするときなど、リヤブレーキを軽く引きずることで後ろから引っ張られる(旋回軸が後輪に近づく)ような感覚で小さく回ることができます。宮崎さんはコーナリング中のライン変更に使えるともおっしゃっていましたが、これの延長線上にある話ではないかと思われます(想定速度が桁違いですが)。また停車するときなどリヤブレーキをごくわずかに早くかけてやれば、車体の後部が沈み込んで過剰なノーズダイブを抑制し、後輪の接地圧が高まることで安定した制動ができます。

さて、ここで何というかとても変な話になってしまうのですが、私はかつて仕事で乗り回していたミニキャブで、この「リヤブレーキを先にかける」操作をブレーキペダル一個でやろうとしておりました。もちろんサイドブレーキでも使わない限り、そんなことできるわけがありません。では何をしていたのかというと「リヤを先にかけるつもり」でブレーキペダルを踏んでいただけです。おそらく具体的にはまず軽くブレーキをかけてゆっくり(と言ってもほんの一瞬ですが)車体を沈ませ、それから強く制動を立ち上げていたと思われます。何しろヤワな足まわりにボディはグニャグニャ、おまけに天井に脚立を載せたミニキャブはとにかくロールもピッチングも酷いもんで、いかにこれを抑えこむか、そればかり考えながら走っていたのですが、面白いことにこれは実際に効果が現れました。またその過程で制動、コーナリング、前後のグリップコントロール等での左足ブレーキの有効性に気づき、これも、競技中無意識に使えるぐらいになるまで練習を重ねました(勧めているわけではありません!)。今振り返ると単細胞でバカ丸出し、ちゃんと仕事していたのだろうかと疑ってしまいますが。

ロードスターのサスペンションジオメトリーを生かして、ブレーキの有効性をさらに拡張して見せたKPCは大変すごい発想だと思います。やっぱりマツダは侮れん、つくづくそう感じた次第であります。