このクルマは令和のKP61だ ジムニーシエラ(2)

さて、シエラの5速MTですが、私には少しばかり扱いにくいものでした。分かりにくいゲート。動きのシブさ。盛大に離れたギヤ比。痛む五十肩をなだめすかしながら操作するも時折シフトミス、シンクロが抗議の声を上げます。丁寧に、とか言っておきながらこの有様(ちなみに私のJB23はAT)。そうか。ようやく私は気づきました。この5速ミッションは本質的に昭和のものなのだ、と。
いくら自動ブレーキを備えた最新のスズキ車だと言っても、そこはやっぱりジムニー、与えられるべきはこのような信頼性は高いが古風なギヤボックスということなのでしょう。いや…そもそも3ペダルMT自体が「古臭い」存在だということを私は忘れていたのかもしれません。
ともあれ、それが理解できた以上あとは体が「思い出す」のを待てばいい。気持ちを切り替え、順応を待ちます。
ところで搭載されるK15Bエンジンですが、吸気側にVVTを備えるDOHCで、JB74が先代から飛躍的に性能向上を果たした、文字通りの原動力となっているようです。実はこのVVTの作動条件を知りたくて色々調べてみたのですがよくわかりませんでした。正直どこで切り替わっているのか分からないのですが、それゆえ全域で扱いやすい事は確かで、前述の通りのワイドレシオでもとくに不便はありません。具体的に言うと、このぐらいならとシフトダウンをさぼって代わりにアクセルを開けたとしても簡単にはノッキングを起こさないのです。意図的に乱暴なアクセル操作を行っても冷静についてくる感じで、このあたり電子制御スロットルの恩恵もあるかと思います。そんな感じでフラットかつ素直に回るエンジンですが、強いて言うなら4千から6千の間ぐらいがパワーバンドでしょうか。ただ登りでは無理に引っ張って回転の上昇を待つより早めにシフトアップする方がよさそうです。いずれにせよセッティングに優れたエンジンという印象です。それに回した時の音もなかなか迫力があって良いのですよ。それとこのエンジン、ベルト類がカバーで覆われており点検が大変そうですが、冬場などエンジンルームに入り込んだ動物が事故に遭いにくくなる、というメリットもありそうです。いいことですね。
走行中の乗り心地ですが、驚くべき変化です。比較対象のJB23が軽であり、しかもスプリングを変えていることを差し引いても驚異的な改善と言ってよいでしょう。ただし、この乗り心地の良さはスプリングの設定やタイヤに頼ったものであり、もともと持っている水平方向の変な揺れやギャップで足元がバタバタ跳ねるような動きが消えたわけではありません。そしてこの改善の方向性が、速度が上がるにつれ私には問題に感じられるようになってゆきます。
この頃私は片道70数キロ、山あり谷ありワインディングロードありという通勤をしており、かなり走りこむ機会がありましたので、その体験をもとに書きます。
まず直進安定性についてですが、ステアリングダンパーの装備等の改良もあって路面のギャップによるキックバックでハンドルをとられることが減り、結果的に改善されました。今回のモデルチェンジで一番素晴らしい出来事です。ただ、構造上仕方ないのですがステアリングは重めです。
またブレーキも扱いやすく普通に効くようになり、これも乗用車らしさを感じさせてくれる一因となっています。
カーブではどうでしょうか。JB23はフロントミッドのFRらしい(2輪駆動時)素直なハンドリングの持ち主でしたし、前述の「ジムニーを話そう」にも今回のモデルチェンジでハンドリングはよりシャープになったと書かれているのですが…実際はそのー、全然曲がりません。流れに乗った普通の速度であってもなかなか厳しい感じです。
ここで一つお断りさせていただきますが、これは、そしてこれから書くことは、あくまでも私個人の印象であり事実と異なる場合もあります。特にジムニーに関してのプロの主張と異なる部分は「ホンマかいな」ぐらいの気持ちで読んでください。
まず最初の切り込みにほとんど反応してくれません。かなり遅れて曲がり始める感じです。なのでここからさらに切り込んでいく、いわゆる「コジる」操作になりがちです。切り込む速度を上げたいところですが、わずかな荷重移動で大きくロールしてしまう足回りなので、切るタイミングを早める方向がよさそうです。そのコーナリング中に発生するロールですが、なんというかリヤから沈むような、人間でいう腰砕けのような感じとでも言いますか、非常に不安定な状態になります。一度だけですが、登りカーブで大きな駆動力をかけた時アウト側のリヤタイヤから「ガサッ」と音が聞こえたような気がしました。まさか内張と接触したわけではないとは思うのですが…。
私は最初この曲がりにくさはタイヤのグリップ性能が低いことが原因だろうと考えました(装着タイヤはグラントレックAT20 195/80R15)。確かにスプリングの柔らかさがそのような状況に持ち込んでいる面もあるかもしれません。しかしそれでもコーナリング中、さらに切り込む必要が生じた場合でもちゃんと着いてくるのです。トレッドには思った以上に余裕がある。このことから、おそらく80というハイトを持つ柔らかいサイドウォールにも原因があるのではないでしょうか。ハンドルを切った時、まずタイヤ本体がねじれることで一度入力を吸収してしまい、その後大きな変形とスリップアングルを発生させながら曲がっていくのだろうと想像します。空気圧を指定値より上げてやれば多少は改善されるかもしれませんが、それよりは他銘柄タイヤでどのように変わるか、例えばヨコハマのジオランダーなんかを試してみたいですね。
いずれにせよ、このハンドリングは少しばかり危険だと感じます。柔らか過ぎるのです。おつりも食らいやすい。それゆえ一発で決められなかった時のラインコントロールは姿勢を乱さないよう慎重に行わなければなりません。その場合ソーイングよりはアクセルのオンオフの方が無難です。
もし足回りを変えるのならまずショックからというのがセオリーですが、私としてはそれより先にリヤスタビライザーが欲しいです。実際それでどのように変化するかは分かりませんが、過大なリヤアウト側の沈み込みがフロントイン側タイヤのグリップを低下させることでアンダーを助長している可能性も無くはない、と考えるからです。
なんだかネガティブな話に終始してしまいましたが、この足回りがお買い物車としての乗り心地ばかりを考慮したものではなく、クロカン性能をも求めたものであると信じたいところです。

 

今日も私は緑豊かな山間部の国道を走り続けています。登りがきつくなってきました。軽くアクセルをあおってギヤを一つ落とします。さらにダブルクラッチを切ってもう一つ。エンジンの回転が上昇していきます。カーブに入ると大きくロールしますが意外と踏ん張ります。ジムニーの面白い所は、ここからさらに追い込んでゆくとリヤがムズムズしはじめることで、私はよくデフの入った車両でこのままスライドに持ち込んだらどうなるだろうと想像します。やがて道は下りへ。ブレーキが信用できるため不安なくカーブへ進入していけます。うん、意外と曲がる。S字。リヤへの負担が減った分だけ前輪の状態に集中できますが、テールを振ってしまうと危険なので一つ目は極力ロールさせないよう慎重にブレーキングしながら通過します。そのままサスを抑え込んだ状態を維持しつつ二つ目へ。向きが変わるのを待ってアクセルを踏み込みますがアンダーが出やすい場面でもありますので、ここは左足で抑えるのが有効です。二つ目を抜けます。あれ、結構速いなあ。さらに加速。
回転上昇と共に勇ましい排気音を奏でるエンジン。ワイドレシオゆえ私の荒っぽいヒールアンドトゥまで受け入れてくれる手ごたえのあるミッション。高まる集中力を感じながら、私はあるクルマを思い出している自分に気が付きました。
「これは…KP61だ」
二十年ほど前、少しの間だけ乗ったKP61。すでに立派な旧車だったにもかかわらずタイムマシンから抜け出してきたかのような異様なコンディション、そんな貴重なクルマで雪道やダートラの練習会を走り回った私。でも最高に楽しいクルマでした。
シエラとスターレット。そりゃあもちろんハンドリングには天と地ほどに違いがある。そもそも作られた目的が違う。なのに私の中の何かが同じ匂いを感じ取っている。俺はこういうクルマだよ、お前はどう向き合う?小柄な体躯で豪快に走りながら語りかけてくる2台のクルマ。重なり合う二つの時代の中、私は彼らへの答えを探すように無心に走り続けます。すべてを忘れて。